2012年4月12日木曜日

ソーシャル・イノベーション Social Innovation: ■ こんなNPOってあり?第5回目


澤村明 新潟大学経済学部

●前回以降の本稿に関連した動き
 溝口敦『仕事師たちの平成裏起業』(小学館)という、暴力団系の起業についての記事をまとめた本が今年初めに出た。「裏」といっても、ペット葬祭業のようなまだ参入者が少ない合法ビジネスにも触れており、社会の奥深さを垣間見ることができる。

 本書の中に、「マル暴NPO」という節がある。副題に「"市民オンブズマン"ほかヤクザの『シノギ装置』と化したNPO法人」とあるように,本来NPO法で排除されたはずの暴力団がNPOを隠れ蓑として使っているという実態を紹介している。たとえば「市民オンブズマン」を立ち上げ企業に環境問題などを突きつけたあとに、本体の暴力団が「NPOからも糾弾されてるんだろ。話を付けてやるから」とシノギをするのだとか。

 同書によると、2003年には内� �府の認証分で2法人26人の役員が暴力団との関係を疑われ、内閣府から警察に身元を照合したとのことである(結果はシロ)。都道府県認証分では39法人345人が疑われ、3件が不認証になったとされている。NPO法人を2つ作った暴力団組長の談話では、「どんなNPO法人でも稼ぎのタネになる」のだそうだ。ただし同書で、認定NPO法人と営利法人の税制を比較して、「NPO法人は税制面で優遇されていて儲かる」と説明しており、それを前提に「NPOは儲かる」というのは誤解を招く。


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 同書は取り上げた起業を、違法性があるかどうか、起業に必要なアイテムは何かで分類し、儲けの太さ・将来性・必要資金をそれぞれ5段階で評価している。これによれば、マル暴NPOは違法であり、経営能力が必要とされ、儲け・将来性・必要資金はそれぞれ5段階で3・3・2。儲けの太さなどはタトゥー・アーティストと同等の評価である。ちなみにいずれも5つ星評価を受けたのは競馬予想ソフト開発会社で、競馬をギャンブルから財テクに変えた105万円の予想ソフトのケースである。また私が資格を持っている占い師は3点とも2つ星であり、NPOのほうがマシということらしい。

 今年6月16日、昨年から問題になっていたNPO� �人「やまびこ会」の代表者が,架空の焼却炉事業への出資金を募るという詐欺容疑で逮捕された(『フライデー』2004年7月16日号などで問題視されていた)。報道によればこの代表者は、1984年に横領と銃刀法違反で広島高裁から実刑判決を受けたが、時効まで逃亡していたという。まさに「裏起業」の実例である。こうなると、暴力団関係者どころか前科者も注意しなければならないのだろうか。

●日本型NPOの不正への対処を考える
 今回は最終回として、こうした「日本型NPOの不正」にNPOセクターとしてどう対処していくべきかを考えたい。前回紹介した『ヴォランタス』(Voluntus)誌の論文では、不正は主としてマネジメントの問題であり、理事会・事務局のガバナンスで対処することが説かれていたが、これまで紹介してきた日本型NPOの不正の多くは「不正行為の隠れ蓑としてNPO法人格を利用する」ものであり、ガバナンス論では対抗できない。セクターとして、こうしたNPOの出現を防ぎ、また発見して警告するという対応が必要であろう。


印刷可能な我々は、メンター·クイズ一緒にいます。

 もとより所轄庁も手をこまねいているわけではない。内閣府では2002年4月から今年6月までに、計10回、45NPO法人に対し、NPO法に基づく改善命令を出している(大半は事業報告書未提出)。その結果、2005年3月までに7NPO法人が認証を取り消されている。2003年から「市民への説明要請」という制度を開始し、市民から「このNPOって変じゃないの?」という問い合わせがあると、内閣府国民生活局長名でそのNPOに対して説明を求める文書を送るようになっている。2003年12月から今年7月までに、計32回、230法人に説明を要請している。ほとんどが設立後の登記事項証明書の提出がないか、事業報告書未提出に関すること であるが、NPOからの返答を読んでいると苦笑を禁じえない。たとえば「NPO法人第○○号」と,あたかも政府のお墨付きがあるかのように広告し,その意味を問われて「法人認証の通知文書に付された文書番号を,法人の認証番号だと勘違いしていました」などと弁明しているのである。また,都道府県レベルでも、暴力団の関与が判明して認証を取り消したというケースもある。

 とはいえ、所轄庁だけに対応を任せておくことでよいのだろうか。第3回で紹介したように、そもそも法案審議の過程で所轄庁がしっかり監督すると主張し事前審査のほとんどない認証制度になったのだから、政府がビシバシやるべきだという考えかたもあるだろう。しかし私は、NPOを市民社会のための制度と捉えるのであれば、むしろ政府 に頼らず、NPOセクター自体で「怪しいNPO」に対処するシステムの構築も検討すべきではないかと考える。2万を超えてさらに増え続けるNPO法人のすべてをチェックすることなど現在の行政には無理だし、チェックできる体制を作ることは「小さな政府」時代に反しよう。


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 私事で恐縮だが、かつて私は請われてベンチャー企業の代表取締役を4カ月ばかり務めた。このベンチャーは住宅を検査して性能評価を行う会社で、当時法律によって新築住宅に性能評価が義務づけられたのに伴い設立した。ハウスメーカーの多くが子会社として性能評価会社を立ち上げたのに対し、私が引き受けた会社はある環境配慮型住宅のフランチャイズ本部で、末端のフランチャイズ工務店がともすれば手抜きをしないように厳しく検査する会社を作りたい、ということであった。依頼主のフランチャイズ本部のトップは、「アメリカ市民を守る保安官のように、安全は自分たちで守る」と明言していたのを憶えている。結果� ��してその会社を辞めて現在に至るのだが、このトップのいう自衛の感覚が市民社会、NPOセクターにも必要なのではないだろうか。

 では具体的にどうするかであるが、議論の出発点として、思いつくところをいくつか提案しておきたい。

 基本的には2つのタイプがあると考えている。摘発か保証か、である。前者は不正・反社会的NPOを見つけて告発するのであり、「NPOウォッチドッグ」である。後者は逆に「このNPOは問題ありません」と太鼓判を押すもので、格付けなどと同じである。

 NPOウォッチドッグの問題は、実際にはどうやって不正を行っていると実証できるのかという点である。保証・格付けにしても、格付機関自体の信用はどうかという問題もある。その意味では、権力を持つ所轄庁� �比べると心許ない。だが、大阪府が2003年にNPO向けの「自己点検シート」「活動分析シート」を作成したものの、NPOに「府による管理強化の手段ではないか」と警戒され、あまり使用されなかった事例もある(日本NPO学会2003年大会での早瀬昇の発言)。やはり、行政の手出しよりもNPOセクター自身による対処がベターなのではないだろうか。


 摘発にせよ保証にせよ、現在のNPO業界の中でもっとも実現が可能な存在なのは、各地のサポートセンターではないだろうか。地域のNPO情報を収集しており、相談も多い。おそらく「あのNPOはちょっと問題があるのでは…」という話も持ち込まれているだろう。とはいえ、摘発の場合は下手すると誹謗中傷・名誉毀損として裁判になるし、保証についてもAmerican Institute of Philanthropyのように寄付のための格付けなら明確であるが、信用に関する保証基準ができるのかは考えてみると難しい。

 私の住む新潟でも、不正NPOについて問題視する声が出ている。先日、新潟県から依託を受けて県NPOサポートセンターを運営する団体と議論した際にも、この話が出た。その時に私が提案したこともあって、県内のNPOの活動に疑問がある場合、同センターのホームページから問い合わせできるコーナーを作ることになった。内閣府の「市民への説明要請」のローカル版である。問い合わせがあったらどうするかは決まっていないが、こうした窓口ができれば、不正への抑止力になるという狙いである。あるいは、各サポートセンターに窓口を設けなくとも、上記の内閣府の窓口を明記しておくだけでも意 味はあるだろう。

 不正NPOの問題でもっとも被害を受けるのが、大多数の真っ当なNPOである。こうしたNPOにとっては、自らの情報公開を推し進め、アカウンタビリティを果たすことこそ、疑いを未然に防ぐ第一歩である。私の経験では、NPO法で情報公開が義務づけられていることを知らないNPOスタッフや、事業報告書の閲覧を希望すると「理事会で承認されなければ見せられない」と答えたNPOもあった。

 情報公開に関しては、「求められれば見せる」という受け身のスタンスでなく、積極的に開示していくことが望ましい。日本NPOセンターのNPO法人データベースで見ても、ホームページを持つNPOは約半数に留まっている。インターネット時代の今は、ホームページによる積極的開示も必� �であろう。



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