2012年4月21日土曜日

第Y章 「乳幼児の生活と環境」


第Y章 「乳幼児の生活と環境」


第Y章 【 乳幼児の生活と環境 】

(最新乳幼児保健指針 2001年3月 日本小児医事出版社発行より抜粋、2005年5月8日一部修正)
国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部 加藤忠明

T 総論
 乳幼児の生活は、乳幼児を取り巻く環境によって規定されており、乳幼児と養育者との相互作用の中で養育者が整えなければならない。養育者からいろいろ世話を受け育てられる乳幼児自身も,その性格の違いにより養育者の養育態度に多くの影響を与え,その養育環境の中で乳幼児は発育、発達していく。乳幼児の環境には何が良いかではなく,個々の乳幼児に適した環境を整えたい。
 良好な親子関係のもとで,乳幼児を温かく受容する親に育てられた子どもの発達はより良いものになる。しかし,個々の子どもにとってどのような親子関係や養育環境が最も良いかは必ずしもわかっていない。また,乳幼児はいろいろな意味で可塑性があるので,乳幼児の発育や発達に多少不都合なことがあっても,一時的なら十分回復可能である。したがって,どのような環境が良いか,親や保育者が試行錯誤しながら自分達なりの育児方針や保育方針を模索し,個々の乳幼児についてより理解を深めようとする気持ちや姿勢が大切である。
 乳幼児の発育や発達の個人差とともに,親や保育者にもいろいろな育児や保育のやり方がある。それらをお互い認め合い尊重し合い,助力や助言をしながら助け合うことが大切である。発育や発達の遅れ、育児不安など何か問題がある乳幼児も,周囲の人々に支えられ適切な環境で育てられれば,その問題は子どもの成長とともに解消していくことが多い。

1.胎児と妊婦の生活
1)胎芽、胎児の環境保護
 妊婦の母体内で受精した時点から人間としての発育、発達が始まる。受精卵は分裂と分化を繰り返し、子宮内で人間の形態と機能を備えた個体にまで発育する。この妊娠期間中の危険因子(子どもに異常を生じさせる可能性のあるもの)として、近親婚、若年の妊娠(20歳未満)、高年齢の妊娠(35歳以上)、重症な妊娠中毒症、妊娠中の重労働(農繁期の専業農家など)、妊娠中の喫煙、飲酒、薬物服用、風疹り患、X線照射(胃のレントゲン検査など)などがある。したがって極力これらを避けることにより、良い赤ちゃんを産む確率が増す。また、妊娠中はストレスを避け、少しでも楽しく過ごせるよう、妊婦自身があまり無理をしないで精神的安静に努めるとともに、それを助けるための周囲からの協力が望まれる。
2)母性意識の発達
 妊婦は、妊娠12週頃に超音波診断装置で胎児心拍動音を初めて聞き、妊娠20週頃から胎動を自覚し、自分の体内にある胎児の生命力を実感として感じとっていく。妊婦のこうした喜びが胎児にどのように作用するかは明らかではないが、生まれてから後の乳幼児の生活環境を整えるために大切な1つのステップになることは確かである。
 女性にはもともと母性、すなわち母親らしさが備わっているという考え方もあった。しかし、最近では一般に、妊娠中や出産前後のいろいろなステップを経験しながら初めて母性が少しずつ備わっていくと考えられている。妊娠とわかった時点では、必ずしも望まれない妊娠は意外と多い。母性意識がいつ、どの程度発達しているかは妊婦一人一人で異なるが、いろいろなことを経験しながら、しだいに望まれる出産になっていくようにしたい。

2、新生児の生活
 母体の胎内という比較的良好な環境下で、胎児と母体とはいろいろの情報交換を行っていたが、出生後、別個体となってもお互い深い関係にある。母親は新生児に母乳を与えたり、抱いたり、話しかけたり、眼を合わせようとしたり、おむつを替えたりする。逆に新生児は母親を見つめたり、母親の乳頭を吸って母乳分泌を促進させたり、母乳を吸いながら母親の体温や母乳のにおいを感じ、泣いて種々の情報を送り、何かを要求したり、母親の愛撫に気持ち良さそうにする。授乳中は、母親の眼と新生児の眼が合っていることもある。
 新生児にもいろいろな表情や動作がみられる。新生児の神経系は、まだ発達途上にあるので、それらが大人と同じような意識レベルで行われているとは考えられない。しかし、新生児も、泣いたり、ほほえんだりさまざまな表情や表出を通して周囲の人達にいろいろ働きかけている。
 新生児は、空腹になると泣いて母親に訴える。その泣き声を聞いた母親は新生児の側によってくる。そして母親は、その泣き声を聞くことにより、自分の乳房や乳腺に無意識的に比較的多くの血液が流れるようになり、母乳をより多く作り出す。さらに新生児が母親の乳頭を吸うことによって、オキシトシンという射乳ホルモンが母体内で分泌され、これは乳頭からの母乳分泌を促進させる。新生児はその母乳を栄養として育つ。そして母親にとって、そのオキシトシンは子宮収縮作用があるので、出産後大きくなっている子宮の回復に役立つ。
 新生児の自発的微笑はとてもかわいらしく愛らしいものである。自分を見つめて笑ってくれるわが子と接する時、親は心の底から喜びを感じる。そして親も思わずほほえみ返したり、抱いたりして愛情を深めていく。以上のような親と子の相互作用は、その後の種々の人間関係の基礎を作っていく。

3、乳児の生活
1)乳児期の母(父)子相互作用
 乳児は、泣き叫んだり、ほほえんだり、すがりついたり、後追いしたり、周囲の人達に積極的な働きかけをしている。乳児は日毎に大きくなり、少しづついろいろなことができるようになる。したがって、乳児自身はとてもうれしいはずである。親や保育者もそれを敏感に感じとって、乳児と一緒に喜べば良い。乳児が何か動作をやろうとして失敗したら一緒に残念がり、少し手伝ってその動作をさせ、遊んでいるうちに愛着が強くなり、信頼関係が増していく。かといって親が忙しい時には、少しくらい泣かせて放っておいても良いであろう。乳児が泣くのは運動の一つであるし、少しはがまん強さも育てなくてはならない。
 乳児は、大人とは違い言葉でコミュニケ−ションできないので、泣いたり笑ったり体を動かしたりして、表情や態度で周囲の人達と意思疎通を行っている。乳児は言葉が話せないのでよくわからないといわれることがある。しかし、親をはじめとする養育者は、乳児の世話をしながら、しだいに乳児とのコミュニケ−ションを上手にできるようになっていく。乳児がどの程度泣いたらどのように抱き上げるかなど、具体的なやり方は人によりかなり異なっているが、多くの場合、自然な育児行動をする中で親は、乳児とのコミュニケ−ションの方法を自然に身につけていく。
 乳児は、空腹時以外にも寒いとき、疲れたとき、また、不快なことがあったときに泣いて、それらを周囲の人達に知らせる。周囲の人達がそれに反応してくれれば、乳児はその反応を期待して、また必要なときに泣くようになる。このようなことが、乳児にとって初期の人間関係、ことに親子関係をかたちづくる上に大切である。また、親にとっては、このような育児行動を通して母親(父親)らしさがだんだん備わっていく。
2)乳児の発達
 乳児初期の泣きはやがて喃語に発展し、言葉の発達につながり、微笑は子どもの社会性や情緒発達の基礎となる。乳児の側からそうした行動がみられた際に相手になり、しっかりそれを受け止め、声をかけたり、あやしたり、笑いかけたりして答えている場合には盛んに現れるようになるが、それを無視したり、タイミングがずれて反応していると、そうした乳児からの働きかけは少なくなる。
 したがって、乳児からの働きかけを、相手となる人間が温かく受けとめることが、子どもの行動を積極的にさせ、情緒・社会性の発達を促す意味で大切である。乳児からの合図を読み取り、活発な、あるいは静かな刺激によって乳児の興味をひき、乳児をくつろがせ集中させてその関心をとらえ、乳児が視覚、聴覚、触覚、動きなど、多様な感覚的運動的方法で外界を模索する手助けをしていくことが望まれる。
 1980年以降、ねがえり、はいはい、1人歩きなど乳児の動作性運動発達は、多少早くなってきた。この要因として、部屋全体を暖める暖房器具の普及などにより薄着の乳児が増えた点、どちらかというとスリムな乳児が多くなった点などもあるかもしれない。しかし、母乳育児などの母子相互作用がいわれ、乳児をより温かく受けとめる親が増加した要素、父親の育児参加が増加し、父親と乳児との運動遊びが多くなった要素など、赤ちゃんと親とのコミュニケ−ションが密になった要因も多いと考えられる。ただ、乳児の発達の早さはうれしいものであるが、乳児の将来の能力と直接的な関係はほとんどない。
3)父親の役割
 家庭の経済的基盤を支え、子どもの社会化を支援し、子どもにとって学習の男性モデルとなることが、一般的に父親の役割といわれている。ただし、乳児をもつ父親としては、だっこや沐浴、おむつ交換などいろいろ乳児と接触する機会をもつことにより、父性を確立していく。

4、幼児の生活
1)1歳児
 幼児は、1人で歩けるようになると行動範囲が広がり、いろいろなことを経験しながら知識として身につけていく。時には、痛い思いをして、危ないことやしてはいけないことに気づいていく。しかし、病院受診が必要なひどい外傷や火傷、誤飲などはしないよう、危険防止には、おとなが特に注意していなければならない。
 幼児自身の意志がより明確になってくると、子ども同士まねしたり、ちょっかいを出したりして社会性がしだいに身についていく。近くの公園などに親子で出かけていき、友達を見つけられると良い。幼児どうしの接触が大切になっていくので、集団保育する利点もでてくる。
 1歳児は周囲の人のまねをしたがるので、大人は良い手本を幼児に示したい。大人といっしょに食事して、大人がバランスよく食べているものを食べさせたり、歯磨きのまねをさせ歯ブラシを口にしゃぶらせると良い。


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2)2歳児
 2歳くらいになると、しっとしたり、すねたり、はにかんだり、てれたりといった情緒面で複雑な感情があらわれてくる。弟や妹などの赤ちゃんができると、自分の方に大人の注意をひこうと赤ちゃんがえりすることもある。反抗期に入ると、道路や店の前で寝ころんで抵抗することもある。しかし、幼児にわかるように大人がゆっくりいいきかせると、幼児なりに理解できる年齢になるので、「もうちょっと待っててね」などと何回もいってみると良い。
 友達遊びは、まだ平行遊びで、まねして遊んでいることが多く、大人がそばにいないと危ないし、子ども達だけでは十分に遊べない。しかし、何をどこまでしたら良いか悪いか身につけていく年齢であるので、友達との交わりの機会をもつことは大切である。
3)3歳児
 3歳くらいになると子ども達だけでの友達遊びが可能になる。ブランコ、すべり台、鉄棒などの遊具や用具を用いて遊ぶ経験から、さまざまな運動機能、平衡感覚、そして安全な習慣を身につけていく。交通事故の危険性のない場所で、友達との外遊びを十分に行わせたい。
 家庭での生活を基盤にしながらより広い社会生活を経験し始め、その喜びや葛藤体験の中で自ら探し、工夫し、活動することによって心身を、また社会性を発達させていく。
4)4、5歳児
 4、5歳になると子どもはいろいろの規則がわかり、身のまわりが自立していく。生活や遊びの中で、人間に対する信頼感、自発性、意欲、豊かな感情、物事に対する興味、関心、思考力、判断力、忍耐力、表現力、運動能力などの基礎が養われていく。幼児自身が自分の考えや体験を話し、また人の話しを聞けるようにしたい。文字や数に関しては、幼児自身が興味をもちだしてから、それを媒介にしていっしょに遊べると良い。
 幼児の周りの世界に関心と親しみの目を向けさせたい。いろいろ体験させ、幼児の興味や疑問にこたえたい。そのためには、幼児にとってゆとりある生活リズム、周囲の温かい人間関係、自然環境との豊かな触れ合いなどが大切になる。 
 保育所や幼稚園で行われる保育は、人間の生涯教育の基礎となる。親しい大人に、自分をかけがえのない大切な存在として受け入れられていると確認した幼児は、その大人への信頼感をもち、以後、他の人々への関わり方のモデルとなる。また、幼児には、自主性や独創性とともに、他の人がいうことに耳を傾け協調する態度を身につけさせることも望まれる。相手と共存し社会的関係を保つために、自分の要求を正しい方向へもっていく練習を保育の中で行いたい。

U 各論

1、居住環境
1)一般的環境
 WHOは生活環境の目標として、「安全、健康、快適、能率」をあげている。通気性があり、日当たりがよく、騒音が少なく、温度は16〜22度くらい、湿度は40〜60%くらいが快適な環境である。そして、健全な家庭生活を営むためには、@家族は各自、独立して生活できる場所がある、A子どもの発達段階を十分配慮した環境がある、B家族の団らんのための部屋がある、C食事をする場所と就寝する部屋は別にある、D高齢者を含む複合家族の場合は、生活空間を分離しながらも近くに住む、などが望まれる。 ただし、現実には様々な住宅事情があるので、必ずしも十分とはいえなくても、生活の工夫によって、少しでもより良い居住環境を作りたい。乳幼児の居室は、大人自身も快適に過ごせるよう、側にいる大人が整えなければならない 。
2)清潔な環境
 室内の空気を清潔に保つためには、外部から新鮮な空気が入り、室内の空気が出ることが望まれる。従来の木造建築は、隙間が多く自然に換気が行われていた。しかし、最近のマンションなど密閉された家の中では、家塵やダニなどが繁殖する場ができやすい。これらをアレルゲンとする気管支喘息やアトピー性皮膚炎などを少しでも防止する意味では、家の中の通風を良くしたり、そうじすることが大切である。
 そうじは電気掃除機が便利であるが、使用中は、細かい家塵などを排出し続けるタイプが多いので、換気扇などによって排気に注意する。ダニは日光にあたったり、風に吹かれると死にやすいので、ふとんや枕などは時々、日に干す。子ども部屋は、家塵やダニを避けるため、また、清潔を保つため、板の間がよい。畳でもよいが、じゅうたんは避けたい。
 日光は、洗濯物やふとんなどをさらすと殺菌効果があるなど、生活環境の清浄化に役立つ。しかし、皮膚ガンの誘因となる可能性も指摘されているので、皮膚に直接、無理に長くは当てない方がよい。
3)冷房・暖房
 多少の寒暖の差は皮膚に抵抗力をつけさせ、健康増進につながるが、あまり暑すぎないよう、また寒すぎないよう、側にいる大人が冷房や暖房により室温を調節する。そして、換気に注意し、部屋の温度にあわせた服装にする。
 夏は、扇風機や冷房の風が直接、乳児に当たって体温が下がらないよう、また、室内と外気との温度差が違い過ぎて健康を害しないよう注意する。冬は、閉めきった部屋でのガス・石油ストーブによるガス中毒に、また、これらを含む暖房器具などによる火傷に注意する。
4)湿度
 乾燥している冬期、また風邪や喘息などの人がいる時は、加湿器を使用したり、部屋の中で湯を沸かして湿度を高めることはあるが、長く行って室内にかびが生えないよう注意する。逆に、梅雨の時期は除湿器を使用してもよいが、使いすぎて喉が痛くならないよう注意する。
5)事故防止
 乳幼児の事故は、日常の家庭内で生じることが多い。居間、台所、またことに浴室の構造、家具の配置など乳幼児の立場から検討したい。乳幼児の溺水事故防止のため、子ども一人で浴室に入れないようにする。危険なものや高価なものはまとめて、子どもの手の届かない所に置く。とびでたものや尖ったもの、乳幼児が飲み込みやすいものがないよう、また、角ばったものにはおおいをして、乳幼児のケガや誤飲を防ぎたい。そして、危険物があったらすぐわかるように部屋の中を散らかさないよう注意する。

2、身体の清潔
 乳幼児の皮膚や粘膜は、まだ未発達で弱い上に、新陳代謝が盛んで、また、よだれや食物のかす、排泄物などにより汚れやすい。また、体は小さくても大人と同数の汗腺があるので汗疹が発生しやすい。したがって、入浴などにより清潔にすることが大切である。
1)入浴
 原則として1日1回、比較的ぬるめのお湯で、乳児用浴槽(ベビーバス、たらい)、または大人用の浴槽(生後1か月以後で臍が乾いていれば入れて良いが、浴槽の中で排尿便をされたり、2人がかりでないと入れにくい)を使い入浴する。授乳や食事の直後は消化器への負担を減らすため、また、空腹で泣いているときは入れにくいので避ける。乳幼児は、裸の方が体を動かしやすいので、うれしそうに入浴することが多い。いやがる場合は、お湯が熱すぎないか、溺れそうになったり目や耳にお湯や石鹸が入っていやな思いをしていないか考えてみる。暑い時に1日数回入浴する場合、皮脂が過剰に洗い流されないよう、石鹸の使用は1日1回にする。表1に乳児の入浴の一例を示すが、具体的なやり方は各自、工夫してみるとよい� ��
 裸になった時は、体の動きや皮膚の状態などを全身観察したり、鼠径ヘルニアなどがないことを確かめたり、体重測定を行い発育状況を経過観察する良い機会となる。湿疹や汗疹、おむつかぶれなどがないか注意し、ある場合はよりていねいに洗う。熱や嘔吐などがあって入浴できない時は清拭をする。
 頭髪で被われている頭は不潔になりやすいので、乳児は入浴のたびに、幼児は少なくとも隔日に洗髪する。石鹸などを洗い流す時に、頭からお湯をかけたり、顔を水で洗っている乳幼児は、万一の溺水事故の際、とっさに身を守りやすい。しかし、どうしてもいやがる乳幼児には、石鹸を、何回も濡れたタオルで拭き取るとよい。

  表1 乳児の入浴の一例
準備:入浴後すぐ着せられるように、座布団などの上に、そでを通した肌着を広げ、おむつを用意する
・煮沸綿で目と口をふく
・洗面器で頭を洗ったり、衣服を脱がせ石鹸で身体を洗う
・ガーゼで身体を包み、ベビーバスなどに入れる
・洗い布で石鹸をよく洗いおとす 
・バスタオルの上に乳児を寝かせ、水分を十分にふきとる
・衣服を着せ、綿棒で耳と鼻の入り口をふき、髪をなでる 
・パウダーは、乳児の首やわきの下、外陰部などに薄くぬることもある

2)手洗い
 乳幼児は手づかみで食べることもあるので、不潔な手で食物を食べて消化不良をおこさないよう食前に、また、食物のついた手で他の物を触り家の中が不潔にならないよう食後に、また、戸外でいろいろな物に触れて汚れている手を清潔にするよう帰宅時に、手洗いを行う習慣をつけたい。2、3歳くらいになれば一人で手を洗えるようになる。
3)うがい
 2歳くらいになると口をゆすいだり、3、4歳になるとうがいできるようになる。食後や外出後に行い、口腔内を清潔にする習慣をつけたい。
4)歯磨き
 1歳くらいになると、周囲の人が歯磨きしていると、幼児自身も歯ブラシを口に入れたがるようになる。入れたままころんで口内をケガしないよう注意しながら、少なくとも就寝前に、また、できれば毎食後、歯磨きする習慣をつけたい。

3、衣服
 衣服を着る目的としては、儀礼、羞恥、装飾などの社会的意味と、寒い時や打撲時など外界の有害刺激から身を守る意味とある。乳幼児では後者に重点がおかれる。
1)種類
 肌着は、保温性、通気性、吸湿性に富み、皮膚を刺激せず、運動性や安全性のある木綿などが良い。中着は寒い時に使用する。上着は装飾の多いものが選ばれやすいが、運動性、安全性のある実用的なものが良い。よだれかけは生後2か月以降に使用することが多い。帽子は、夏の強い日射を避けたり、冬の寒さを防いだり、外傷の予防をしたり、集団保育の際にクラス別に使用することがある。靴下や手袋の着用は、乳幼児の運動の妨げになるので、よほど寒いとき以外はなるべく使わない。靴下をはいていると滑りやすいので、室内では自分で取ってしまう乳幼児が多い。
2)調節

 各部屋ごとに温度や湿度が異なっている建物が多いので、周りにいる大人と比較して衣服を調節すると良い。新生児は安静と保温が大切であり、大人より1枚多めに着せて寝かせ、タオルケットなどをかけておくことが多い。生後1か月以降の乳児はからだを鍛える意味でほぼ大人なみに考える。ことに生後3か月以降の乳幼児は体温調節能力がほぼ大人なみになり、昼間は手足を活発に動かすようになるので大人より1枚少なめ、睡眠中はふとんを蹴飛ばして取ってしまうこともあるので1枚多めに着せる。
 乳幼児の動きを活発にさせ、温度変化に対する皮膚の順応性を増させ、汗疹予防のためには薄着の方が良い。また、身体を完全におおってしまう服装は運動のさまたげになるので良くない。ただし、冬寒い時は、手足や耳が紫色になってしもやけにならない程度に着せたり、夏暑い時は、汗疹予防の意味で肌着1枚は着せる。


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4、睡眠
1)睡眠・覚醒リズム
 3〜4時間の授乳リズムで寝たり起きたりして過ごす新生児は、昼夜の区別があまりない。しかし乳児はしだいに、親の睡眠・覚醒リズムを見習うことによって、生後2〜3か月ころ昼夜の区別が可能になり、夜は比較的よく眠るようになる。したがって寝室は薄暗い静かな部屋が望ましく、夜中は乳児をあまり構わない方がよい。日本の乳幼児は、親子いっしょの部屋で寝ることが多い。
 集団保育前の乳幼児は、親の生活リズムに合わせて就寝時刻が遅くなりやすい。しかし、24時間のリズムがとれていて、大きい子がいない午前中の公園などに行ける時刻に起きていれば心配ない。保育所・幼稚園に通園すると、その通園時刻に合わせて寝たり起きたりするようになる。
2)睡眠時間
 新生児は一日20時間近く眠るが、乳児の睡眠時間は、月齢とともに短くなる。昼寝も含めて長く眠る子どもの方が、親は他の仕事ができるので楽であるが、個人差はあるものの1歳ころ一日12〜14時間くらいになる。
3)夜泣き
 夜泣きは生後半年ころから始まり、1歳すぎまで続きやすい。人間の睡眠は、深くなったり浅くなったりを一晩で4〜5回繰り返すので、乳児は浅い眠りの時に夜泣きしやすい。夜泣きしても、昼間元気で食欲があれば、乳児自身に問題はなく、周囲の人を困らせることが問題であることが多い。その注意点を表2に示すが、空腹のため夜中1〜2回泣くのは必ずしも夜泣きとはいえない。
4)夜尿
 2、3歳までの夜尿は普通であり、夜中、おむつをして寝てくれれば放っておく。4歳以降の夜尿に関しては、表3の注意点を参考にする。

  表2 夜泣き防止の注意点
・夜中乳児が少しくらいぐずっても、すぐには構わない。しだいに激しく泣く場合に授乳する。 
・就寝前に乳児を興奮させすぎない。
・昼寝を含めた一日全体の睡眠時間が長すぎないようにする。
・就寝前に空腹や満腹になりすぎないようにする。
・昼間、十分運動させる。
・アトピ−性皮膚炎、汗疹などかゆい皮膚は治療して治す。
・幼児期には減りやすいが、母乳を止められない子は持続したり、体調の悪い時、疲れた時、ストレス時な どには夜泣きしやすいので注意する。
  表3 夜尿の注意点
・4歳児の週2、3回の夜尿は、心配ないができれば止めさせたい。就寝前に排尿する習慣をつける。おね しょしなかったらほめて自信をつけさせるとよいが、おねしょしても怒らない。
・5歳児以降の毎日の夜尿は、夕食後の飲水を禁止するなど一般的な注意を行っても持続する場合、小児 科を受診する。就寝前のイミプラミン服用などにより消失することもある。
・眠っている子を無理に起こしてトイレに連れていかない。
・回数が減ってきた明け方の夜尿や、失敗したあと目覚める夜尿は消失しやすいので、夜間のオムツを とってみる。
・おむつかぶれなど外陰部の皮膚疾患はないか注意する。
・寒すぎないか、水分摂取量が多すぎないか注意する。
・園でのお泊まり保育の際は、先生に夜、起こしてもらう。

5、くせ
 乳幼児は、年齢が低いほど自ら体験したことや気持ちをはっきり親や保育者に伝えられないので、それを表そうと何かくせが出てきたり、不穏な行動をすることは多い。それなりに対処していれば心配ない場合は多いが、比較的多く見られるくせについて以下に述べる。
1)指しゃぶり
 生後2、3か月児の約95%は指しゃぶりするが、発達に伴い乳幼児にとって他におもしろいことが見つかると、しだいに頻度は減る。したがって乳児期は清潔に注意するくらいで放置することが多い。しかし、幼児のひどい指しゃぶりの場合、指にまめができたり、化膿したり、歯並びに影響することがあるので、指をふいて清潔に注意したり、また冬はしもやけにならないよう気をつけながら、できれば止めさせたい。昼間していたら、相手をして遊んだり、外に連れだしたり、他のことに気をそらせたり、2歳以降は本人に何回もいいきかせて止めさせたい。時には指にからしを塗ったり絆創膏を張って止める幼児もいるが、無理のない範囲で行う。就寝前にする場合は、できる範囲で他の就眠儀式に変えたり、ぐっすり眠ったら取� �。
2)就眠儀式
 乳児期後半から、眠る前の就眠儀式が始まることがある。指しゃぶりの他、人形や枕をかかえたり、母親の皮膚をいじったり(痛い時は止めさせる)、タオルをしゃぶったり(きれいなタオルを与える)、ぐずったり、自分の耳を触りながら眠る子がいるが、放置してよい。
3)その他
 親は心配しやすいが、普通は異常でない乳幼児のくせや行動を年月齢ごとに表4に示す。何らかの疾病の初期症状でないことに注意しながら、適切な助言を行い、親の不安を取り除く。

  表4 親は心配しやすいが、普通は異常でない乳幼児のくせや行動
0〜1か月 2時間毎の授乳、授乳後の不満足、排便時に顔を赤くしてうなる、軽度の振戦、いつも抱かれたがる
2〜3か月 授乳回数が1日4回しかない、果汁や野菜スープを飲まない、激しい泣き、余り泣かない、腹ばいをいやがる
4〜6か月 離乳食をあまり食べない、歯が萌出してかむ、親の注意をひきたがる、支えられて立ちたがる、いびき
7〜9か月 離乳食をきたなくする、わざと後ろに倒れる、人見知り、添い寝したがる、ハイハイしない、物を落とす
10〜12か月 砂や土など何でも口に入れる、歯ぎしり、人見知り、逆に人見知りしない、じっとしていない、時々首を横に振る
13〜18か月 食欲減退、自分で食べたがる、食べさせてもらいたがる、キーキー声、かんしゃく、いつもの物への執着、動き回る
19〜24か月 かんしゃくの爆発、がんこ、兄弟げんか、動きすぎる、気持ちの混乱、物をなげる、物の中に入りたがる、物にのぼる、発音不明瞭
25〜36か月 新しい食物を食べない、かんしゃく、がんこ、友達と遊べない、攻撃的そして独占的な遊び、思い通りにならないと泣いて騒ぐ、はっきりしない恐れ、どもる
37〜48か月 新しい食物を食べない、がんこ、きたならしい遊び、物を片付けない、すぐお腹を痛がり甘える、どもる、思い通りにしたがる、便や尿を時々もらす
49〜72か月 食卓のマナーが悪い、もらった物を分け合わない、時々悲しそう、批判に対する高い感受性、いつもは従わない、知らない人を怖がる、空想にふける、消極的

6、しつけ・教育
1)大切な信頼関係
 乳幼児はいろいろ体験することにより、しだいに何をしたら良いか悪いか身につけていく。乳幼児の要求を大人がすべて満たそうとすると、何でもできるという錯覚を乳幼児に与えてしまう。また、逆に大人は乳幼児の行動結果がわかるから、始めから失敗させないよう禁止や命令が多くなると、大人の判断にのみ頼る依存的な子どもになりやすい。したがって、極力乳幼児のすべてを受け入れ、乳幼児との信頼関係を作りながら充分に自己発揮させ、他者との葛藤の中でしてはいけないことに気づかせたい。
2)安全教育
 乳児期後半から、動作が活発になり危ないことを平気でするようになるので、安全な環境を整備するだけでなく、安全教育も始めたい。熱いものや、とがって痛いものを乳児にちょっと触らせると、その後、自分からは触ろうとしなくなるので、条件反射的に教えたい。
 危険なこと、本当にしてはいけないことは、乳幼児にさせないようにすると、しだいにしなくなることは多い。万一どうしてもいけないことをしたら、その直後にしかるが、なるべく怒らないつもりでいる方がよい。2歳すぎれば、ゆっくり何回もいいきかせて、いけないことを幼児に理解させたい。何か言うとすぐきいてくれるわけではないが、繰り返し話してもいやがらない年齢である。
3)習いごと
 乳幼児が習いごと(多い順は、音楽教室、水泳教室、体操クラブ、幼児教室)に通っている割合は20〜50%であり、ことに都市部に多い。親子ともに楽しい経験をする意味、同世代の他の親子と知り合える意味、幼児なりに何かを身につける意味、健康増進の意味などでは良いが、幼児自身が興味を示し、楽しく通える範囲、無理のない範囲で通わせたい。
4)早期教育
 有名小学校や有名幼稚園に入れるための幼児教育や早期教育が一部で行われている。低年齢児でも文字や数字など何かを教えれば、そのことだけは、多少理解したり覚えたりできる。しかし、それ以外のことができるようになったり、知的に発達するわけではない。逆に幼児期に大切な他の経験ができなくなったり、やりたくないことをさせられて欲求不満になりやすい。したがって幼児自身が興味をもったことを十分させたり、教えたり、疑問に感じたことに答えたい。幼児自身が自ら探し、工夫し、活動でき、集中して遊ぶ体験ができた子どもは、成長後、勉強や仕事、運動などにも集中できるようになるであろう。
5)発達段階に応じたしつけ・教育
 表5に年齢ごとのしつけや教育の一例を示す。これを参考に、家族の中で、また園の中で話し合ってみるとよい。

  表5 年齢ごとのしつけ・教育の方針例
1歳 ・危険なこと・本当にしてはいけないことはさせないが、他は自由に
・万一どうしてもいけないことをしたら、その直後にしかる
2歳 ・同上、しかし、なるべく怒らないつもりでいる
・ゆっくり言いきかせると理解できるので、幼児にわかるように言う
3歳 ・自我が目覚め反抗するときは、危なくなければあまり干渉しない
・友達遊びの中で何をしたら良いか悪いか少しずつ身につけさせる
4歳 ・自分の考えを言い、また、人の考えを聞けるようにする
・文字や数字に興味をもちだしたら、いっしょに遊ぶつもりで教える

5歳


アメリカの国旗の色は何を表していますか
・同上、また、幼児を取り囲む世界に関心と親しみの目を向けさせる
・種々の体験をさせ、本人の興味や疑問に対して教える 

7、排泄の世話
 乳児は、膀胱内の尿や直腸内の便の貯留が刺激になって無意識的、反射的に排泄する。したがって、家の中などが排泄物で汚されないように、どちらかといえば大人の都合で、おむつをしている。
 1歳ころからは、幼児自身その貯留を意識したり、排泄後に知らせたりするようになる。1歳半すぎからは、括約筋の緊張を幼児が多少コントロールできるので、排泄のしつけが可能になる。
1)おむつの種類
 従来から布おむつとしては、白い木綿地がよく使われている。これは、吸湿性、通気性に富み、また尿や便の性状を見やすい意味でよい。一般的には各家庭で洗濯して、再利用しているので、経済的である。病院や保育所などでは、排泄物で汚れた布おむつを業者に洗濯させ、清潔にした布おむつを届けさせて使う貸おむつが多い。これも衛生面では問題ない。
 しかし、日本では1982年に高分子吸収体を用いた紙おむつが発売されてから、紙おむつが急速に普及している。尿を比較的多く吸収でき、また使い捨てであるので、外出時や睡眠中、また母親が忙しい時などに便利である。紙おむつの表面は、より滑らかに作られており、乳児の皮膚への刺激性が少ないので、必要なおむつ交換を行っていれば、おむつかぶれができにくいともいわれる。紙おむつには、布おむつと同様、外陰部に当ててから、おむつカバーをするパットタイプと、そのまま当てるだけのパンツタイプとがある。後者がより便利であり、多く使用されている。
2)おむつ交換
 授乳の前後や起床時など定期的に、また尿や便でおむつが汚れた時など、1日10回くらいおむつ交換を行う。月齢が小さいほど、交換回数は多い。交換する時、汚れている外陰部を濡れたガーゼなどで、きれいに拭き取ろうとすることはよいが、拭き過ぎて傷つけたり赤くさせないよう注意したい。どの種類のおむつを使用する場合でも、適切におむつ交換していれば、おむつかぶれの頻度や排泄のしつけ時期に大きな差はない。
 布おむつの場合、おむつの当て方は、股関節脱臼予防の意味で股おむつにする。長方形にたたんだおむつを、男の子は前を厚めに、女の子は後ろを厚めに、なるべく臍に当たらないようにして外陰部に当て、おむつカバーをする。パンツタイプの紙おむつは、そのまま当てれば脱臼予防になる。また脱臼予防のためには、乳児の両足が自由に動くような当て方が望ましい。そして乳児初期のおむつ交換では、無理に足を引っぱったり、伸ばさないように注意する。
3)排泄のしつけ
 乳児は、おまる(乳幼児用の便器)に座らせると反射的に排泄することがあるが、1歳すぎると幼児自身が意識してしまい、できなくなることが多い。本格的なしつけは1歳半ころ、幼児自身が排尿排便の前に動作や言葉で周囲に知らせ始めるころから行う。
 幼児をおまるに座らせてしつけることは多いが、排泄の度におまるをきれいにしたり、幼児が大きくなってから大人用の便器で排泄することを教え直さなくてはならない。始めから大人用の便器でさせる場合は、幼児が座りやすいように穴を小さくさせる便座を併用するとよい。
 起床時など長い時間、おむつが濡れていない時におまるに10分くらい座らせて排尿させることを試みるとよい。幼児がいきんでいて排便しそうな時にも試みる。そして排尿排便が、もしうまくできたら幼児をほめて自信をつけさせる。失敗しても怒らない。
 夏など、トレーニングパンツをはかせてしつけることもある。2歳くらいになれば、そこら辺に排泄してしまったら、「ばっちいよ」、「くさいよ」、「おかしいよ」と何回もゆっくり言い聞かせてみるとよい。昼間のおむつがほぼ全員とれる時期は、現在3歳ころであり、以前に比べて半年ほど遅くなっている。

8、遊び
 乳幼児は、何気なく遊んでいるようでも、生き生きと生活しその中で種々のことを経験し、学び、行動の学習をしている。そこに子どもの本当の姿を見ることができるので、乳幼児を知る意味でも遊びを大切にしたい。ただし遊びの具体的内容は、個人差が大きく環境や生活習慣により異なる。
1)乳児
 乳児を抱いたり、なでたり、膝の上にのせて揺すったり、おぶったり、あやすなどの肌と肌との触れ合い(スキンシップ)が大切である。そして、しだいに思い通りに動かせるようになる手足や身体の運動自身、またそれによる体験自体が、乳児にとって楽しみであり遊びとなる。
 3〜4か月児は、首がすわり、声がすると顔を向けたり、あやすとほほえむ。抱いて歩くと、あちこち見回す。音がすると、じっとそれに聞き入る。手で衣服をひっぱったり、口や鼻の近くへもっていって吸う。
 6〜7か月児は、欲しい物に手をのばし、つかんで一方の手から他の手に持ちかえたり、なめて確かめたりする。あやすと喜び、声をあげる。親しい人に対しては、他人と区別し、喃語で声を出し注意をひこうとする。
 1歳近くなると、はいはいしたり、つたい歩きしたり行動範囲が広がる。周りに対する好奇心が旺盛となり、何でも触れてみる。自分の要求を「アーアー」などの声に出し、自分の名前を呼ばれるとそれに応じる。言葉を聞くことが好きで、それに合わせて体を動かしリズムをとる。
2)1歳児
 歩き出した1歳児は、好奇心がますます盛んになり、指先の機能も発達してきて、生活用具をあちこちいじりまわす。また人のまねをしながら、なぐり描きをしたり、テレビなど機械のスイッチをいじったり、兄姉の玩具を取って遊ぼうとする。しかし、他の玩具で、また他の場所に連れていけば、すぐ気は変わりやすい。
3)2歳児
 体の動きがなめらかになり、バランスを要する動作も上手になってくる。周りの物や出来事に対する関心はより強くなり、「これなーに?」の質問をしてくる。日常生活で見たり、聞いたりしたことを、遊びの中で再現し楽しく遊ぶ。積木遊びをしたり、テレビをよく見たり、絵本を読んでもらって喜んだりする。そして、言葉、音楽のリズム感覚、パジャマへの着替えなどを覚えていく。
4)3歳児以降
 危険防止に対する注意は大切であるが、安全な環境内であれば大人が見ていなくても友だちと、また時には一人で自由に遊べるようになる。いろいろな環境を利用してのびのびと遊べるよう、また、遊びの内容は幼児自身が自主的に考えられるようにしたい。
5)おもちゃ
 おもちゃは乳幼児にとって遊びの対象物であると同時に、いろいろの機能や遊びを引き出す道具である。子どもの自発的な活動を伸ばすもの、楽しく満足できるもの、またできれば、大人もいっしょに遊べるものがよい。対象となる年月齢表示を参考にする。また、低年齢児には、大人が使用している生活用具(掃除機、食器、箱など)もおもちゃの代わりになる。
6)テレビ・ビデオ
 テレビなどの一日平均視聴時間は、乳児で約1時間、1歳児で約2時間、3歳児で約3時間である。乳児は、見たくない番組にはそっぽを向いて別の遊びをしているが、興味のある番組が始まると、テレビに顔を向ける。2歳くらいになると、幼児用の番組を見て、歌ったり踊ったり、パジャマへの着替え、歯磨きなどをまねして、いろいろなことを身につけていく。テレビを長時間見せてテレビに子守をさせるのはよくないが、番組を選び、正しい姿勢で見せれば、発達を促進させることにつながる。

9、友達関係
1)1歳児
 自分の周りに友達がいることを感じはじめ、人のまねをしたり、ちょっかいを出したりして遊ぶ。時には物の奪い合いから、かみつき、物を投げるなどいざこざを生じるが、このようなことを通して社会性を身につけていくので、同じくらいの年齢の子どもとの接触が大切になる。近所の公園などに連れだし友達を作れるとよい。
2)2歳児
 友達のやっていることをまねて、平行遊びをする。しかし、友達との関わりの中で、玩具を取り合いお互いゆずらないなど、トラブルも引き起こす。また、恐れ、嫉妬などの情緒の動きが激しく、暴れる、甘える、人をえり好みする、はにかむなどの姿が見られる。したがって、大人が見ていないと遊べないが、やがて気の合う友達もでき、追いかけたり、ごっこ遊びをするようになる。
3)3歳児以降
 自意識がはっきりして、友達どうしで遊べるようになる。生活の中で繰り広げられるさまざまな動きや運動は、友達と創意工夫して遊ぶことによって高められる。友達と遊ぶ中での運動は、基礎体力を育てるだけでなく、友達との協調性を高めたり、積極的な性格をつくったり、心身両面によい効果がある。
 いろいろ出会い、いっしょに遊びながら楽しみ、共感し合うことによって、互いに友達として親しくなっていく。同年齢、異年齢、他国籍、また異性の友達、そして各種の障害をもつ友達と交わっていく。模倣遊び、ゴッコ遊びなどをしながら、また時にはけんかをしながら、何をしたら良いか悪いか少しずつ身につけていく。自我が目覚め反抗する時は、危なくなければあまり干渉しない方がよい。


10、外出・旅行
 子どもを中心とした戸外での生活は、子どもの社会性を身につけさせ、健康を増進させ、親にとっても経験となり、楽しみとなるので、可能な範囲で積極的に連れ出すとよい。
 以前に比べると、交通機関は整備され、乳幼児を外に連れ出しやすくなっている。しかし、乳幼児の空腹や寒暖、疲労などはすぐわかるように、また突然の何らかの事故や事件にもすぐ対処できるように、大人が側についていなければならない。
 外出先での暑さ寒さ、冷暖房の程度はまちまちであり、それに適応できるように衣服を用意したり、小さな乳幼児の場合は、おむつなども持っていかなければならないので、乳幼児の外出や旅行は意外と大変である。乳幼児は抵抗力が弱いし、いっしょにいる大人も疲れやすいので無理しないようにしたい。大人が疲れなければ、乳幼児も大丈夫なことが多い。
1)乳児の外出
 新生児は、安静と保温が大切であるので、なるべく外出は避ける。しかし、生後1か月になったら一般の環境に順応させる意味、また親子の気分転換の意味で、外気浴や日光浴を兼ね、30〜60分くらい、おつかいや散歩に連れ出すと乳児は喜ぶ。だっこをして、またはクーハンや水平になるベビーカーに乗せるとよい。第二子以降は、兄姉の公園での外遊びや幼稚園の送り迎えに、いっしょについていくことが多い。ただし人混みは、感染防止の意味、またほこりっぽいので、なるべく避ける。
 首のすわる3〜4か月以降はおんぶが可能になるし、すわった姿勢でベビーカーに乗せたり、自動車にもカーシートを使用して乗せやすくなり、外出しやすくなる。ただし長時間の外出は、おむつや離乳食を、人工栄養の際は、消毒した哺乳びんと粉乳、湯を入れた魔法びんなどを持っていくことが必要であるので、できれば避けたい。
2)旅行
 乳児の旅行は、里帰り分娩の際などでの実家と自宅との行き来、避暑地での静養などの他は、できれば避けたい。乳児自身は、あちこち連れ回されても負担になるだけであり、親といっしょにいられることを一番望んでいる。
 1歳すぎれば幼児なりに旅行を楽しめるようになる。他の社会生活を知り、自然に親しみ、その意味では種々の体験ができる。しかし、幼児の目の前にある幼児自身にとって興味のあるもの、たとえば未知の草花、石ころ、乗り物などに長く興味を示すことが多いので、大人の楽しみ方とはだいぶ異なる。
 幼児の発育・発達を考え、幼児自身興味のあるものを、幼児の体力に応じて、無理のない範囲で計画するとよい。宿泊の時は、寝る時いつも持っている玩具、好きなおもちゃなどを少しだけ持っていくとよい。
3)乗り物
 乳幼児を連れ出す時は、荷物が多くなりやすいので、自家用車で行くのが便利である。ただし事故防止の意味で、子どもにあったシートベルトを着用する習慣をつけたい。また急ハンドルや急ブレーキをかけると、乳幼児はけがをしやすいので、極力安全運転で走らなければならない。
 自転車の前後に乳幼児を乗せることは、実際には多く行われているが、危険であるので、可能なら避けたい。ことに後部に乗せている幼児がどのような行動をしようとしているかはわかりにくいので、特に危険である。
 長距離の旅行の際は、なるべく短時間で行ける乗り物を利用したい。電車やバスを利用する時は、なるべく混んでいない時間帯を利用したい。さらに長距離の場合は、飛行機を利用することもある。気圧の変化により耳に不快感を大人が感じる時は、乳幼児も同じようになりやすいので、白湯など何か飲ませるとよい。同伴者に荷物を持ってもらったり、駅や飛行場まで送り迎えをしてもらったり、他の人の援助が望まれる。

11、健康増進
 新生児は、外界に適応するために体内でいろいろな変化が生じている時期であるので、安静と保温が健康増進につながる。しかし、生後1か月以降の乳児は、以下のように少しずつ外界に慣らして体を鍛えるつもりの方がよい。
1)1〜2か月児
 乳児に着物を着せたまま外界の風に当てる外気浴は、始めはベランダや庭などで行う。乳児自身が気持ち良さそうにするようであったら、おつかいや散歩などに連れていくとよい。
 昔はくる病予防の意味で勧められていた日光浴は、今では将来の皮膚がん発生の誘因になる可能性が指摘され、必ずしも勧められないこともある。しかし、乳児は裸になると体を動かしやすくなるので喜ぶし、気分転換になるので、遊んであげるつもりで短時間行うとよい。足の方から始め、しだいに体の中心部まで十数分くらい、日光に当てるとよい。ただし、湿疹のある部位は、皮膚への刺激になるので避けたい。
2)3か月以降の乳児
 体温調節能力が大人とほぼ同じになる生後3か月以降の乳児は、薄着の方が、手足を動かしやすくなるので運動発達によいし、温度変化に対する皮膚の順応性が増し、また汗疹防止にもなるので健康増進につながる。ただし、寒いときにはしもやけにならないよう注意したい。
 首が座る生後3、4か月以後の乳児には、赤ちゃん体操(乳児体操)をしてみるのもよい。必ずしもしなければならないものではないが、どのように乳児と遊んだらよいかわからない親には参考になる。乳児は、無理ない範囲でいろいろ体を他動的に動かしてもらうことを喜ぶし、しだいに可能になりそうな動作を手伝ってさせてみるなど、次の運動発達段階のことを遊びの中で練習してみるとよい。
 寝たり起きたり、離乳食を食べたりする時刻を、だいたい一定にするなど、規則正しい食生活を行うことにより、体内のホルモン分泌が24時間のリズムで行われ、体調をよくする。
 もともとは水難防止を目的にアメリカで始められたベビースイミングが、日本でも生後6か月くらいから受け入れる施設が増えている。乳児を水に慣れさせ、体を鍛える、親子で楽しめるなどの利点はあるが、水いぼや結膜炎などの病気をうつされないよう、またプールの水を飲み過ぎて水中毒にならないよう注意したい。
3)幼児
 乳児期と同様、薄着にしたり、正しい生活のリズムをつけることは大切である。一日3食、規則正しく食事することにより、食欲増進、偏食防止、虫歯予防、便秘予防になる。睡眠・覚醒のリズムを整えることにより、神経系の働き、ホルモン分泌などが良好になる。
 偏食しないで栄養のバランスをとることにより、体の抵抗力が増し、カゼなどにかかりにくくなる。幼児の好き嫌いは年齢とともにかなり変わるので、いやがる食物を無理に与えなくてもよいが、調理法や盛りつけ方を変えたり、弁当や外食などにしたり雰囲気を変えて食べさせてみるとよい。親が好き嫌いなく食べて、それをまねさせるとよい。
 幼児が外で元気に遊ぶと、室内遊びに比べて、より多く全身運動するので、運動器官だけでなく、各種臓器の発育・発達によい。またエネルギーを消費するので食欲が増進する。腸の動きも活発になるので、便秘予防にもつながる。
 乾布摩擦や冷水摩擦は、皮膚を鍛え自律神経系の働きを調整する意味で行うことがある。しかし、湿疹のあるところには刺激になってよくないし、寒い冬は避けるなど、無理のない範囲で行いたい。
 水泳教室は、できれば3歳以上に行う。水いぼなど予防のため水泳後は体をよく洗う、カゼ気味の時など体調の悪いときは避けるなど注意する。

12.環境の変化とその対応
 第二次世界大戦後、核家族の増加、少産少死化、価値観の多様化、女性の社会参加、経済発展とそれに伴う産業構造の変化、衛生環境の向上、地域社会の変貌、交通の過密化、地価高騰と住環境の変化、都市化、国際化、自然環境の破壊など、乳幼児を取り巻く環境は大きく変わり、最近は高学歴化、高齢化、情報化社会となっている。
 総論で述べたように、親は乳幼児の世話をすることによって、母性父性意識をしだいに発展させていくが、それを周囲から支えることも大切である。少子化の進行や女性の社会進出などに対応して、地域や行政、職場など社会全体が協力し、子どもを安心して生み育てられる子育て支援社会をつくりたい。激動する社会の中で、現在の子どもの生活自体に最も大きな影響を与えているのは以下の事項であり、それらへの対応を考えたい。
1)子ども数の減少
 自宅付近で異年齢を含む子ども集団ができにくくなり、テレビ、おもちゃ、幼児雑誌が氾濫している自宅の中で子どもは生活することが多くなり、人間関係の希薄化を生じている。心身共に機能が未熟で抵抗力の弱い乳児には家庭保育が望まれるが、幼児には子ども達が自由に楽しく安全に遊べる公共施設や公園、遊び場の整備、保育所の一般解放などが望まれる。またそれらに子どもを連れ出し自由に遊べる雰囲気を親や地域社会が作る努力も必要である。
2)女性の高学歴化
 多くの教育を受けた女性達が親となり子どもを育てる時代となり、親達は子どもの細かいところまで気になったり、種々の情報にふり回されて育児不安になる場合が比較的多い。専業主婦の場合、子どもが成長し親の手元を離れるにつれ、育児以外、自分に生きがいのないことに気付き、その不安が子どもに反映することがある。したがって育児不安に対してすぐ相談できる場の整備拡充、女性が育児以外にも生きがいを見い出せる社会体制作りが望まれる。
3)働く母親の増加
 女性の高学歴化と職場進出に伴い、働く母親が増加している。この場合は、仕事と家事・育児の両立の困難性が問題である。父親の助力も必要であるが、それとともに乳児期など母子相互作用の大切な時期には育児休業制度、幼児・学童期には保育制度の拡充整備が望まれる。
@産休明け保育 1992年より育児休業法(1999年より育児・介護休業法)が施行されているが、現実にはいろいろな理由により、出産後も働き続ける女性が増加している。そこで産休明け乳児の保育をどうしたら良いかは問題である。お互いの信頼関係、経費、評判、自宅や職場との近さ、保育者1人当りの乳児数が2〜3人以下か、母乳栄養が可能か、感染防止の意味で小人数の保育形態かなどを考え、祖母か親戚の養育、職場保育施設、保育ママ(家庭福祉員)、認可保育所、無認可保育施設、家政婦か友人の養育、ベビーホテルなどの順で、保育可能か調べてみると良い。また、保育行政は市区町村による差が大きいので、良い条件にあう預け先を見つけて近くに引っ越すのも良い。
A園と親との関わり 保育園で保育者は子どもの体験や感動を共有している。それをその場にいない親に知らせ、時と場の共有を親にも広げたい。子どもと共有した結果だけでなく、そのプロセスや理由、また教育上の意味も知らせるようにしたい。しかし、保育者からの一方的な連絡だけでなく、親からも家庭での子どもの様子について聞きたい。子どもを主体とする相互のコミュニケ−ションが、園と親の共通理解を深めることになる。
4)情報化社会
 家庭へのパソコンの普及はめざましく、近い将来、全小学校にインターネットが整備され、子ども自身の情報処理の功罪が問題になる。子ども用のゲーム機なども含めて、幼児期からどのようにコンピューター機器に接するのがよいのか、皆で考えていかねばならない。


13、ドゥーラ(助け人)
 妊娠、出産、育児に関して、精神的、身体的に女性を助ける人をドゥーラという。ドゥーラが妊婦のそばにいると妊娠中の不安が和らぎ、出産時に立ち会えると難産が減り、出産後も母親のそばにいれば育児ノイローゼの防止になる。昔は自宅分娩のため近所の人達やお産婆さんがこの役割を果たしていたが、近年はほとんどが施設分娩になり、地域のコミュニティーが変わってきた。そこでその役割を以下の人達にになってもらおうと、いろいろ試みられている。
1)父親
 産前教育に夫を積極的に参加させようと、従来の妊娠中の母親学級を両親学級に変えて、夫にも妊娠、出産、育児に関して教えたり、分娩に夫を立ち会わせる夫立ち会い分娩を認める病院が増えている。そのことにより、出産時に産婦のアドレナリン分泌が減少し、不安や緊張、心細さがやわらぎ、難産が減り、またその後も妻の家事・育児に関して手助けしてくれるためか、母乳栄養率が高くなるといわれる。
2)祖母などの家族
 女性が出産前後に実母などから出産・育児に関する知識を得たり、手伝ってもらうために、出産前後、しばらく実家の世話になることは多い。自宅と実家が近ければ問題はなく、出産前後の大変な時期に家族や親戚の中で助けあうことは、将来の親子関係に良い影響を及ぼす。しかし、遠距離での里帰り分娩は、往復の負担、父子関係が育ちにくい、妊娠・出産を同じ病院でしにくい、などの欠点を考えておかねばならない。
3)助産婦、看護学生、保母など
 妊娠、出産、育児に関して多少でも知識のある人が、妊婦の側に時々来て、出産し育児するまで継続して見てくれると女性は心強い。そこで、助産婦学校や看護学校などの学生に、それをになってもらうことがある。

14、環境汚染
 環境汚染(大気汚染、水質汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭、土壌汚染など)、食品汚染(農薬、PCB、BHC、DDT、ディルドリンなど)などの悪化は、地域差はあるものの、最近は多少、防止可能になってきた。環境の変化に対応しながら、子どもの健康障害を少しでも引き起こさないよう、これからの社会がどうあるべきか、皆で考えていかねばならない。
1)大気汚染
 大気汚染は、工場や事業場の業務活動に伴って発生するばい煙、また自動車からの排出ガスなどによって引き起こされる。これらの中に含まれる硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素、浮遊粒子状物質、また、主として窒素化合物と炭化水素が紫外線の作用を受けて二次的に生成される光化学オキシダントなどが問題になっている。人体への主たる影響は、目や鼻などの粘膜への刺激症状であるが、子どもでは気管支喘息、大人では肺がんとの関連性が心配されている。
2)母乳汚染
 DDTやBHCなどの農薬、PCB等の脂溶性難分解物質は、体内に入ると腎臓から排泄されにくく、母体では、母乳分泌により体外に排泄されやすい。これらの有機塩素系化合物は、脂溶性で容易に分解されないため、食物連鎖によって濃縮され、汚染された農作物や畜産物、魚介類を摂取することで体内に取り込まれる。それらの汚染防止のため、DDTなどの農薬の使用は1971年から禁止され、PCBは1972年より規制され、母乳中の残留濃度はしだいに低下している。しかし、猛毒のダイオキシンやコプラナPCBが検出されることもある。したがって、公害による母乳汚染を少しでも防ぐ意味では、肉類は脂肪や内蔵を避けたものを、魚介類はなるべく遠洋のものを食べるほうがよい。

参考文献
1)キリスト教保育指針、キリスト教保育連盟、1990
2)加藤忠明、他編著:こども学2「母子へのまなざし」、福武書店、1993
3)加藤忠明、他編著:こども学8「少子化時代の子ども」、ベネッセ、1995
4)高橋重宏、他編著:子ども家庭白書、川島書店、1996
5)加藤忠明、他編著:新版図説小児保健、健帛社、2005
6)加藤忠明、他編著:絆「学際的親子関係の研究、メディサイエンス社、1996
7)日本子ども家庭総合研究所編:日本子ども資料年鑑、KTC中央出版、2005
8)日本総合愛育研究所編:子ども家庭施策の動向、ミネルヴァ書房、1996
9)情報・知識イミダス、集英社、2005
10)保育用語辞典第3版、ミネルヴァ書房、2004
11)育児の辞典、朝倉書店、2005


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